しのはら史絵/弔い怪談 葬歌

 これまた初の単著。
 女性の作家さんで、良くも悪くも女性らしい特徴がよく現れている。

 おそらくはネタが怖くないだけで無く、描写の力点が人の情とか思いのようなところにあるので、余計に恐怖からは遠離ってしまうのだ。
 小説であればむしろ美点とも言えるだろうけれど、実話怪談としてみるとどうもピントがずれてしまっている、という印象を感じてしまう。

 一方で、湿度の高い厭な話が多目でそのじっとり感もより強い、という良さもある。

 「チェンジ・ザ・ワールド」これなど冒頭に書いたことが典型的に出ている話の一つ。
 それぞれの人間関係が話の中心になっているので、呪い、というおどろおどろしさはありながら、それはむしろ脇役のような印象。
 ただ、発達障害の症状が呪いを抑えるために作られている、というのは衝撃的だ。勿論元々がそういうものではないとは承知しつつも。
 自分と同じ発達障害という冒頭の告白で親近感が湧きそうになったけれど、感覚過敏はこちらには無い症状だし遙かに生活に支障を来す本当の「障害」であり、気易く同じなどと感じてしまっては失礼だと判明した。

 「深爪」カエルのように壁面に貼り付き血を舐め取る女、何とも不気味だ。
 以前に自殺した女だとして、何故血を舐める必要があるのだろう。そんな事例を聞いたことも無いし。怪異と絡んではいるものの独立しているようにも見える本人や友人のエピソードがこれまた粘っこい。しかし、それが味になってもいる。

 「不動産屋と神社」この本でも神関係の話が目立つ。
 地面と繋げる必要がある、ということは聞いていたけれど、それをせずきちんと神が祀られていない神社には怪しいモノが巣くってしまい、それを拝むとその人まで良くないことが起きるようになる、というのは知らなかった。
 通常の神社にお参りすることがほとんどだけれど、微妙なものが混じっていないとも限らないので、気をつけねば。

 「創造主」これもオリジナルの神ネタ。
  やはり神の器を作りながらきちんとお迎えしないと、何やら妙な代物が取り憑いてしまうようだ。この家族はその後どうなってしまったのだろうか。不謹慎ながら知りたくて仕方が無い。

 「返したかったもの」厳密には怪談と呼ぶには厳しい。夢の話だけだからだ。
 ただ、その夢の内容は偶然や語り手の意識から生まれるには不可解な内容であることも確か。
 そして、これを青春物語としてみると、一級の切なさに満ちた、とても心に残るものになっている。何とも哀しい。火事の方が夢で、現実に二人が共に生きていく未来があったら良かったのに。

 「化かされた」猫の腐乱死体を抱きかかえさせられる、というのは実におぞましい。一生忘れることも出来そうにない。まさにトラウマだ。
 化かしたのが狐では無くて無縁仏、というのが良く判らない。そういうものだろうか。
 今回のことは警告と思われる。警告する、というのもむしろ神さまの常套手段なんだけどなあ。
 警告として枕に包丁を突き立てる、という物理攻撃も凄い。むしろ地元の人(旅館の人とか)からの警告なのではないだろうか。

 「ハリコサンとテディベア」や「赤卒」なども印象的な話なのだけれど、やはりどうしても怪談ではない要素の方が圧倒的に強いので、怪談本を読んだ時に得られる満足感とはどうにも違ってしまう。
 決して面白くない、というわけでは無いのだけれど、否違う、求めているのはそれじゃない、という気持ちが捨て切れず、もやもやした読後感になってしまう。

弔い怪談 葬歌posted with ヨメレバしのはら 史絵 竹書房 2020年12月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る